はじめに。この記事は、これからの音楽ライブのあり方について、アイデアを紹介したり提言を述べたりする記事ではありません。タイトルで期待してくれた方、すみません。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、急な変化を求められてきたこの数ヶ月ですが、個人的には特に音楽ライブの変化に注目してきました。
ずっと注目してきたけど、どうすればいいのか全然わかりません。別に自分はライブハウスを運営しているわけじゃないし、出演する側でもないけど、めちゃくちゃ悔しいです。
で、つい先日。ライブハウス新基準を政府が発表するとのニュースがありました。拡散されていたYahoo!ニュースの内容はFNNプライムオンライン独自のニュースで、まだ政府が正式に発表したものではありませんが、正直、くらいました。こんなん無理やんって。
なので、なんか出来ることはないかなって思った結果、これまで自分がストックしてきたコロナと音楽ライブに関係する情報を、ただただ淡々と載せるまとめ記事を書くことにしました。ちょっとした自分なりの感想を添えて。
音楽ライブに対する社会の動き
最初に。音楽ライブに対する世の中の動きをまとめました。ネガティブな情報は探せばどんどん出てきますが、なるべく端的にまとめています。
行政から「ライブハウス」が名指しされる
コロナの感染拡大防止策として、分かりやすい方法として示されたのが「3密を避ける」という表現。その3密空間の例として、ライブハウスがやたらと名指しされることになりました。原因としては、クラスタ感染がライブハウスで発生したことや、想像のしやすさなどがあるかと思います。
名指しされるだけならまだしも、地獄だったのはSNSなどで目にする「ライブハウスなんて」から始まる世間の人たちの声。自粛警察にも通じるところかと思いますが、自分に関係ない人の立場や境遇を共感できない人があまりに多いんだなと残念な気持ちになりました。
自粛要請に伴う助成を求めるプロジェクト「#SaveOurSpace」がスタート
営業自粛を余儀なくされたライブハウスや小劇場などに助成を求めるプロジェクト、Save Our Space が3/27にスタートしました。SNSを中心に拡散されたこのプロジェクトは、オンライン上での署名が30万筆も集まったことが話題に。
現在は、文化芸術復興金の創設に向けて、映画や演劇の団体とともに #WeNeedCulture というアクションを実行中。文化庁の支援にライブハウスやミニシアターが含まれるかどうかが、直近の注目事項です。
ライブハウスを支援する草の根活動が次々と
営業できないライブハウスを救うべく、個人やグループ発信の草の根活動が次々と立ち上がりました。その多くはチャリティーグッズを販売したり、クラウドファンディングを行ったり、です。以下に自分の把握している主な活動を書いておきます。
- SUPPORT YOUR LOCAL LIVEHOUSE by SMDcrew
- SAVE THE LIVEHOUSE
- MUSIC UNITES AGAINST COVID-19
- CAMPFIREでの個別クラウドファンディング
ライブハウスが次々とYouTubeチャンネルを開設
なんとか存続したい、文化を発信しつづけたいと思ったライブハウスの多くが、YouTubeチャンネルを開設し始めました。生配信機能と投げ銭機能(Superchat)を利用するには、1000人以上のチャンネル登録者数と4000時間の総視聴時間が必要になるため、YouTubeチャンネルを開設したばかりのライブハウスが次々とチャンネル登録&視聴を呼びかけました。
満員電車が「ライブハウスみたい」と話題に
緊急事態宣言期間が明けて、社会にだんだんと人が戻り始めたある日の電車がの様子が、「まるでライブハウスみたい」とニュースで紹介されました。ライブが好きな人からすれば普通にムカつくし、そもそも満員電車が発生する状態を変えようと世の中が動いていかないのが意味不明です。
行政が「新しいライブハウス指針」を発表
緊急事態宣言が解除されたのをきっかけに、いくつかの自治体がライブハウスに取り組んで欲しい方針を発表しました。神奈川県や大阪府のガイドラインを見ましたが、これまでのライブハウス体験とは程遠いものになってしまう方針でした。
オンラインライブの取り組み
コロナ禍でライブを続ける方法として選択肢として残されたのが、オンラインライブでした。なんとかオンラインライブでの体験を良くしようと、様々な取り組みが行われたのをまとめています。
ZAIKO
一番始めに個人的に注目したのがZAIKOというプラットフォーム。コロナ禍の割と早い段階でceroが使っていて知名度を一気に上げた印象です。
特徴はチケット販売と動画配信がセットで提供されていること。ZAIKOを使えば、有料オンラインライブをワンストップで実現できます。またオンラインライブの特設ウェブサイトを作れるツールも提供されているようで、livehausの企画やVideo Service “Amusement”などオンライン上でのフェスサイトみたいなものがZAIKOのプラットフォーム上に作られています。
オンラインライブに付き物なのがサーバートラブル。6/13に大規模なトラブルが発生したようで、それに伴いZAIKOに対する不満ツイートも溢れていました。トラブルに際して体験を考察したツイートも非常に参考になります。
渋谷エンターテイメントプロジェクト × オンラインライブ
auが主体となって5Gの活用事例の一つとして進められている渋谷エンターテイメントプロジェクト。最近だと、攻殻機動隊とコラボした「バーチャル渋谷」が話題になりました。
そんな渋谷エンターテイメントプロジェクトが、ぴあ、スペースシャワー、ナターシャ(ナタリーの会社)、DOMMUNE、SHOWROOMとタッグを組んでオンラインライブに取り組むことを発表。まだ事例がバンバンあるわけじゃないですが、6/14に「SUPER DOMMUNE tuned by au5G」と題して、FISHMANSのARライブが行われる予定です。
リモートセッションをライブ配信
リモートならではの取り組みとして、多くのアーティストが工夫をこらして行っていたのがセッションでした。Bank Bandがオンライン上で2年ぶりに集まったり、ワンオクが「完全在宅Dreamer」と題したセッション動画を配信したり。
そんなセッションを生配信でチャレンジしたのが、世界的にも人気の高いインストバンドのLITE。無事にセッション生配信を成功させると、その知見をnoteにまとめて発信していました。
InstagramやTwitchを使ったライトなライブ配信
何か参考URLを貼って傾向を見せられるわけじゃないんですが、海外ではアーティスト主導でインスタライブやTwitchを使ったライトなライブ配信がたくさん行われていた印象です。配信ツールがライトな分、どうしてもアコースティック中心のライブがほとんどでしたが。
多くのアーティストが一緒になってフェスっぽくやるのも多かったし、配信ライブならではの企画とかも多かった印象です。以下に、主な事例を貼っておきます。
- FEST AT HOME (フロリダのThe FestがFacebook上でフェスを実現)
- FOURCHELLA(Summit Shackというグループ主宰のTwitchフェス)
- Phoebe BridgersのWorld Tour at 自宅
FEST AT HOME NIGHT 10 – ENCORE HANGOUT again we’ve got THE Max Stern from Signals Midwest, Steven from Dikembe, and Brandon from Boys Life and The Farewell Bend! We’re raising money for the National Bail Out Fund and Dream Defenders. Please take some time to go and donate a few bucks if you can!https://secure.actblue.com/donate/nationalbailouthttps://dreamdefenders.org/
THE FESTさんの投稿 2020年6月11日木曜日
マインクラフト上でWall of Death
SXSWが中止になったことを受けて、マインクラフト上で行われたオンラインフェスのBlock by Blockwest。そのフェスでハードコアバンドKocked Looseのライブ中、なんとWall of Deathが発生しました。オンラインフェスって、自分の肉体感覚が伴わないがマイナスポイントやと思うんですが、仮想であっても視覚的に肉体接触を感じられるのは、もしかしたら今後のオンラインフェスのヒントになるかもなぁって思います。
just witnessed a wall of death happen in minecraft pic.twitter.com/KyXdWKgNqE
— jordan (@JordanUhl) May 16, 2020
スペースシャワーがオンラインライブハウス「LIVEWIRE」を始動
音楽番組専門チャンネルの運営で知られるスペースシャワーが、この7月よりオンラインライブハウス「LIVEWIRE」を始動すると発表しました。言ってしまえばただの有料配信ライブですが、公演のキュレーション、つまりライブハウスにおけるブッキングのところで、他とは差異化を図ろうという試みのようです。
コロナ禍でもローカルでライブをやる試み
コロナ禍におけるライブはほとんどがオンラインでしたが、ソーシャルディスタンスを確保しつつ、ローカルでライブを行う事例が徐々に出てきています。今後、この項目の事例が増えていくといいなと願って、数少ないながらまとめてみます。
車でライブを楽しむ「ドライブインフェス」
デンマークやドイルで、車に乗ったまま楽しむドライブイン方式のフェスが開催されました。デンマークのはアコースティックライブ、ドイツのはレイブパーティです。
The Flaming Lipsがバルーンに入ってライブを実施
ロックバンド The Flaming Lips が、テレビ番組の中でバルーンに入ってライブを行いました。お客さんもバルーンに入って楽しんでいます。
すごいなーと思ったのが、コロナ禍に入った割と早い段階でこの構想のイラストをTwitterにアップしてたってこと。バンドの世界観に合うなら、たまにはこういうライブもありなのでは。
コロナ時代初の野外集客ライブ「多摩あきがわ#ライブフォレスト」
新型コロナウイルスの感染が広がって以降初となるリアル集客イベントとして、多摩あきがわ #ライブフォレスト vol.01が開催されました。アーティストが演奏を行う会場には最低限のお客さんだけがアクセスできて、ライブ配信も行われるというハイブリッドな手法。野外では観客の距離も取りやすそうですし、今後のライブの参考になりそうな事例ですね。
S.M.N. が海岸でのアコースティックライブを発表
九州のメロディックパンクバンドS.M.N.が、海岸でのアコースティックライブを発表しました。開催日は7月土曜日の晴れている日という流動的なもの。こういう十分なスペースのあるストリートライブが、一番実現しやすいのかもですね。
【ライブ情報更新】
7月の土曜日
4日、11日、18日、25日の晴れた日のいずれかで開催!!!
やるかどうかは当日に発表しますので、土曜日は油断しないで下さい!!S.M.N. Pre
CHANGE!! CHANGE!! CHANGE!!2020年7月中の土曜日
会場:糸島市志摩野北海岸start 19:00予定https://t.co/qilHlwhB7U pic.twitter.com/sjLejWlMza
— S.M.N. (@smnjp) June 15, 2020
ライブならではの価値とは
絶対オンラインでは体現できない価値がローカルなライブにはあるはずだと思いながら、なかなかそれを分かりやすい形で表せられないよなと悶々していましたが、頭の中でモヤモヤ考えてても埒が明かないので、とりあえずライブの魅力をどんどん要素として書き出していきました。それはまたの機会にどこかでアウトプットするとして、ここでは、自分が参考にしたいろんな記事を、グッときた部分の引用とともに紹介します。
デイヴ・グロールが寄稿した「なぜ我々にはライブが必要なのか?」への考えが、熱くて泣ける / Rockin’ On(記事URL)
みんなといつ再び安全に、肩をぶつけ合いながら、声を張り上げて歌い、心臓をバクバクさせながら、体を動かし、魂を生命力で炸裂させられるようになるのか、分からない。だけど俺に絶対に分かっていることは、再びみんなでそれをやるということ。なぜなら、やらないわけにはいかないから。それ以外の選択肢はないんだ。
Foo Fighters のデイブ・グロールが The Atlantic に寄稿した記事を、かいつまんで和訳した記事。ミュージシャンとして、デイブはライブは何ものにも変えがたい体験だと思っていることがわかって、それが空間や振動、気持ちの共有にあると考えていることがわかる内容でした。
音楽で飯を食わなくてもいい。toe山嵜と考えるアーティストとお金の関係 / SustAim(記事URL)
最近感じているのは「ライブ」の代わりはないってこと。オンラインライブがいろいろ試されているけど、フィジカルなライブの代替にはならない。お客さんと演者が同じ空間にいるのが、ライブなんだよね。ライブがない世界なんて、正直、考えたくない。
上で紹介した MUSIC UNITES AGAINST COVID-19 の発起人でもある toe の山嵜さんへのインタビュー記事。ここでもはっきり「ライブの代わりはない」と書かれていて、気持ちがすっきりした。
人生は50歳で花開く。アジカン・後藤正文×予防医学研究者・石川善樹が考える人生戦略 / J-WAVE 81.3FM(記事URL)
たき火やラジオ、音楽に共通するのは、自分という概念が溶けてみんなと一体化している状態。昔から仏教などいろんな宗教で言われていることですが、みんなと一体になる感覚は極めて幸福じゃないかと。私はその状態を「Well-being」と名付けました。
ライブに言及した記事ではないんですが、引用した「自分という概念が溶けてみんなと一体化している状態」ってのは、まさにライブならではの魅力を表す表現でもあるよなって思いました。
ライブハウスのこと / daimas(記事URL)
その瞬間を目撃したいし共有したいってことなのかなと思う。目と耳と肌で同時に。
下北沢でライブハウスやインディーレーベルを経営されている会社のnoteより。情報の同時性ってのは意外とオンラインでも実現できるのかなと思いつつ、瞬間や空間の共有や、肌で感じるみたいなところはライブならではの魅力だなと。
LOSTAGE 五味さんのツイート
気配の情報化、みたいなものはまだ今のところオンラインでは出来ていない、多分それが今日オンラインイベントの取材でも話題になった寂しさの理由かもしれないな
— LOSTAGE (@LOSTAGE) May 16, 2020
気配をオンラインで伝えることができていない、それがライブだけじゃなくオンラインコミュニケーションにおける欠点だよなーって思っています。ちなみに、五味さんはTwitterで考えたことをそのままポンポンと発信されるので、めちゃくちゃ興味深くて、これまでは誰かのRTで流れてくるのを見てるだけやったけど、コロナ禍に入ってからフォローし始めました。人が考えるきっかけとか過程が見えて、めちゃくちゃ面白い(fun じゃなくて interesting)です。
ライブハウス/クラブは、「配信は代替にはならない」と主張をするべき。/ スガナミユウ(記事URL)
経産省のJ-LODlive、文化庁の緊急支援パッケージ、地方公共団体の独自案。どれを取っても、配信などにおける費用の援助が主たる目的だ。
この記事を読んで、政府の支援策がどれもオンライン配信に伴う補助であることを知りました。ライブハウス支援しなきゃ → コロナ禍で出来る活動はオンライン配信 → オンライン配信に補助だ、という思考プロセスにおいて、ローカルならではの価値観の検討や議論って含まれるのかな。オンライン化は手段であって目的じゃないこと、仕組みをつくった先には「人」がいることを、仕組みづくりに関わる人全員にわかって欲しいです。
この記事は、今後もアップデートをかけていければと思っています。情報としてこんなのもありましたよーとかあれば、コメント欄やTwitterなどで教えていただけると嬉しいです。
コロナの感染拡大で時代を以前と以後に分けて、「一度変わったものは元には戻らない」とするのがどうやら正しいみたいなことになっていますが、音楽ライブに関しては「いや、元に戻ってくれないと困るんだけど…」って気持ちがなかなか消えません。でも、いつまでもそうだったらダメなんだろうな。